「ところ変われば品変わる」のことわざ通り、は、松山市北条や今治市周辺の「鯛めし」と南予の「鯛めし」では、内容が全く違います。そのため、食べるときには、注意が必要となります。
 観光客はもちろん、地元の人間でも、これにはとても戸惑います。自分の期待していたものと全く違う「鯛めし」が運ばれ、呆然とその料理を眺めつづけることになりかねません。こういう事態を避けるためにも、メニューの説明をよく見るか、係の人にどちらの地域の「鯛めし」かを尋ねておく方がよいでしょう。
 中・東予の「鯛めし」は、鯛を一尾丸ごと釜に入れ、醤油と酒、だしを加えて米とともに炊きあげたものです。ご飯が炊ければ、鯛の身をほぐしてご飯にまぜ合わせ、椀によそいます。ご飯を炊くときに、鯛の下に昆布を敷いておくと、身をほぐしても骨の混じりを防ぐことができます。
 さっぱりとした味つけに、鯛の複雑な旨味が混じりあい、魚の王者の風格を持つ上品な味。あつあつの「鯛めし」をガツガツと豪快にかきこむと、食べることの幸せを実感できます。
 江戸時代の料理書『鯛百珍』には、「鯛を三枚におろし、茹でて乾かし、その汁で米を炊く。炊きあがれば鯛をむしってご飯と混ぜ、よく蒸して釜盛りにする」と記されています。美味しさの決め手が、鯛のダシにあることを『鯛百珍』の著者はよく知っているようです。
 美味しい「鯛めし」を食べたいなら、釣船でつくられるものもお勧めです。釣ったばかりの鯛を使い、釜に海の水を入れて炊き上げるため、程よい塩味となります。釣れなくても、釣り船の生け簀には鯛が泳いでいるので、ご安心を。潮風を受けながら味わう「鯛めし」は至福の味。漁師気分で海を眺めながらの食事は、何杯でも食べられそうです。
 松山市北条の鹿島には、神功皇后(じんぐうこうごう)が朝鮮出兵の戦勝を祈願した折、「鯛めし」を賞味したという伝説があります。真偽のほどはさておき、中・東予の「鯛めし」が由緒のある料理であることは間違いありません。

※土井中照著『愛媛たべものの秘密』(アトラス出版)を参照しています。

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